お嬢様の仰せのままに。



それは、幼き日の、約束の証。

彼女の母親の、形見だ。

「いつか大切な人が出来たらお揃いでこれを付けなさい」と、
そう言って遺してくれた物だと、後から彼女の父親に聞いた。


「…こんなもん無くても、俺は傍に居るのに」


控え目にダイヤをあしらった、蝶のモチーフのピアス。

彼女にとても似合っていると思う。

だけど、時に恨めしくもなる。

自分の左耳に付いている、蝶がデザインされたイヤーカフに触れた。

これを見るたび、彼女のピアスを見るたび、
「これがあるから傍に居るんでしょう?」と、
嘲笑われているような気分になる。

それでも、俺が傍に居ないと、
これを付けていないと、彼女が安心できないって言うなら。


「…好きだよ、沙凪」



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