siNger
「あ。」
「やっぱり!!」
それは,顔に青あざを作って,唇が切れていた彼だった。
「どうしたんですかッ!?」
「・・・・なんで。」
「え!!?」
「あ・・・・いや。」
そう言って彼は顔をそらした。
「・・・・・・喧嘩でもしたんですか??」
「うん。」
痛々しそうなあざ。
血。
「どうして・・・・?」
「・・・・・・・。」
「??」
彼は声を出さない代わりに,地面に文字を書き始めた。
‘口が痛くて話せない’
「あ!!ごめんなさい,気がつかなくて;;;」
「平気だよ。」
短文は言葉を出す。
「だから帰ったら?」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・ほっとけないもん。」
「平気だよ。」
「平気に見えません。」
私は公園の隅にあった水道にハンカチを濡らしに行った。
戻ってきたとき,彼はとても不思議そうな顔をしていた。
「はい。」
私はハンカチを彼に差し出した。
「こんなんでごめんなさい。これで冷やして?」
私は特に痛そうな右唇の端にハンカチを当てた。
「――――――――ッ!」
彼は眼をつむって下を向いた。
「ごめん!痛い!?」
彼は首を横に振った。
彼の右手に目が行った。
真っ赤だった。
殴った後?
すごく痛そうだった。
「あれから・・・・来てないんですか?」
「え?」
「あの場所。来てないんですか?」
「・・・・・・なんで?」
「何回か行ったんだけど,1回もあわなかったから。」
「・・・・・・。」
なんだろう。
やっぱりこのひと不思議。
「あの・・・わたし瀧野春美っていいます。」
「!」
「あなた・・・は?」
「・・・・・・・。」
彼は地面に文字を書いた。
’翔‘