12ホール
「…ここが…亥月と麻幌の家がある場所か?」
小さい駅だか、途中で乗り換えた特急電車も停車する。
「そうだよ…」
辺りを見回しながら亥月が答えると、何かを見つけた様に歩き出す。
「お迎えに上がりました」
クラスの高い車の前で、黒いスーツ姿の男が表情も変えずに亥月の荷物を受け取る。
「ああ…紡衣様が寄越したのか?」
「…はい…」
「諳?行くぞ?」
「亥月…そいつは人形だ!離れろ!」
臨戦態勢の諳が声を荒げる。
「うん、そうだ…とりあえず、今は始末しないで貰えるか?」
諳を抱え上げると車に乗り込む。
「何故だ?」
「俺、まだ免許無いから…帰れなくなるだろ?心配しなくても紡衣様が消してくれるから」
「紡衣とは?」
「麻幌の兄ちゃんだよ…ほら、あれが家だ」
車が門を潜る。
それからも緩やかな坂を走ると、やっと建物が見えて来た。
数台の車が並ぶスペースに一度で駐車が完了した。
「到着いたしま…」
スーツの男は、言い切る前に人形の式符に戻る。
「な?」
荷物をトランクから出しながら亥月が笑う。
「この様な高等な符が書ける者が…」
運転席に落ちた式符をつまみ上げ諳が灰にする。
「何してる?行くぞ?」
諳は慌てて亥月を追った。