12ホール
第一章 蛟。
「まぁ、まぁ…麻幌様!ご連絡頂けばお迎えに行きましたのに」
門前からもかなり歩いてドアにたどり着く。
慌てた様子を見せつつも、顔は嬉しそにメイド頭の五月女が出迎える。
「うん…ちょっと歩きたいな…って思ったんだよ…みんな元気か?」
バッグと土産を手渡しながら麻幌が人懐こく笑う。
「俺に会うまでの時間稼ぎか?」
五月女は深々と頭を下げる。
声の主は腰までの黒髪を靡かせて麻幌の前に出て来た。
「相変わらず…ご挨拶だな…兄上は」
この相手こそ…
麻幌が会うのを億劫がっていた兄であり、当主の紡衣(つむぎ)である。
「まぁ、上がれ…」
「そうだな…お邪魔します…」
「一応、お前の家だろう?」
「あ…そうだよね…」
その様子を見て五月女はクスクスと笑う。
「歩いたら汗かいたんだよね…先に風呂入って良い?」
「五月女…準備してやれ」
溜息混じりに紡衣が促す。
当主としての役割を果たそうとする兄との関係は決して悪い訳ではない。