12ホール
「麻幌様…タオルをここに…」
檜の香りが立ち込める浴室に五月女の声がする。
「ああ…ありがとう…五月女?」
「はい?」
「亥月は俺の代わりに代返して、大学の猫にエサをやってるよ…」
「そうですか…ちゃんと麻幌様にお仕えしてますか?」
「うん…してくれてるよ」
「それは良かった…昔から麻幌様にも、紡衣様にも対等と言うか…遠慮の無い者だったので…」
仕事を終えた五月女が風呂場から出て行くと、麻幌は独り言の様に呟き笑う。
「兄上はどうか知らないけど、俺はそれが有難いけどね…」
勢い良く湯船から立ち上がると五月女が準備してくれた着替えに袖を通す。
「待たせた?」
12の玉(ぎょく)が祀られた板張りの祭壇で紡衣が待ち兼ねている。
「ああ…」
禍々しい雰囲気の紡衣が振り返る。
「えっと…報告だよね…聞いてるとは思うけど…」
先程とは違い、言葉を選びながら麻幌が腰を下ろす。
「無事に助け出せたんだな?」
「うん…それは…玉の力を借りて」
自分の耳のピアスを指差す。
「…もっと…別の物で宿せば良いのに…」
紡衣が溜息をつく。
「…報道…観ちゃった?」
「ああ…記憶まで消し忘れたんだろ?」
少しだけ紡衣が声を荒げる。
「だけど、ほら…最近はピアスが沢山ある人、珍しくないから…」
亥月の言葉を借りて告げる。