ボレロ - 第一楽章 -
私の話に真剣に耳を傾けた男性は初めてだった。
こんな男性がいたなんて……
初めこそ穏やかに微笑み、隙のない態度を見せていたが、私の反論によほど驚いたのか、呆れたのか……
鼻をくったような態度に、乱暴な物言いになってきた。
それが、意見をかわすうちに次第に私の話に興味を持ち、疑問点を質問し、自分の意見を述べた。
「なるほどね。こちらの情報も完全ではないということだな。
君の話は説得力がある。もう一度検討してみるよ。貴重な意見をありがとう」
こんな言葉を残して彼は車を降りた。
「ありがとう」 と素直に口にできる男性が、この社会にどれほどいるだろうか。
もう一度会いたくて、話をしたくて……ただそれだけで、彼に関する調査を始めた。
近衛宗一郎……私の人生に関わってくるのだろうか。
穏やかな面持ちとは異なり、激しさと冷静さがみえる彼の内面に触れ、私は久しぶりに手応えのある男性に出会った嬉しさと、彼に惹かれてしまうのではないかというおそれで、胸の奥がざわついていた。