ボレロ - 第一楽章 -
「アナタ、宗さん、潤さん、ありがとうございます。
紫子さん、珠貴さんによろしくお伝えしてね。
それからお願いがあるの。
ブローチと同じデザインでスカーフ留めを作っていただきたいの。
そう聞いていただけないかしら」
「まぁ、それはステキだわ。さっそくお聞きしてみますね。
彼女、きっと喜ぶと思います。
珠貴さんの発案で始めた新事業ですから、張り切っていらっしゃるもの」
「須藤さまも、素晴らしい後継者がいらっしゃってお幸せね。
珠貴さんのお相手も近々決まりそうなんですって。
お母さまが嬉しそうにしてらしたわ」
「本当ですの? つい先日もお会いしたのに、
そんなこと何もおっしゃらないから……」
「一度立ち消えになったお話しみたい。
でも、お相手の方が是非にとおっしゃったそうよ。
本当に良かったこと……
あら、おしゃべりがすぎたみたい。ごめんなさいね」
またも静夏の肘が私を突いたが、そ知らぬふりで立ち上がった。
特に必要でもない氷を取ろうとバーカウンター下の冷蔵庫に手を伸ばすと、
「こちらに貸して」 と紫子の声がした。
私からアイスペールを受け取り、氷をつぎ足しながら紫子の言葉が続いた。
「昨日、お品物は宗一郎さんにお届けしますと、珠貴さんから連絡を頂いたの。
お二人はお知り合いだったのね」
「知り合いというか、ちょっとした繋がりがあってね。
アクセサリーのデザイナーが平岡の彼女なんだ」
「そうだったの。では、平岡さんを通して宗一郎に渡してくださったのね。
どうして私ではなく宗一郎さんに届いたのか、不思議に思っていたものだから」
「平岡さんって、宗の秘書の方でしょう?
ふぅん、人って意外なところでつながっているんだ」
途中から会話に入ってきた静夏が、意味ありげに頷き私を見た。
睨みつけると 「そんな顔しないでよ」 と口を尖らせドリンクをもって
立ち去った。
釘を刺したにも関わらず、静夏の口がいつ珠貴のことをしゃべり出すかと
思うと落ち着かない。
ソファに座り、不機嫌そうにグラスを乱暴にかき混ぜている妹に声をかけ、
バルコニーへと目配せした。