ボレロ - 第一楽章 -
……起きて 宗……
……ここで寝ちゃだめよ ベッドに……
私の肩を揺り動かす手と呼びかける声
以前にも同じようなことがあった。
あぁ、静夏だ。
そうだ、アイツがまた起こしに来たのか。
「……静夏か、もう少しだけ寝かせてくれ。1時間後に起こしてくれないか」
「起こすのはいいけど、ソファでは体が休まらないでしょう。
ベッドの方がよろしいわ」
はっきりと耳に響いたのは妹の声ではなく、私が ”部屋で待ってるよ” と、
さきほど告げた相手だった。
待っていると言っておきながら寝てしまった失態を繕おうとするのだが、
眠気に襲われた頭はすぐには体に指令を送ることができずにいた。
「仕方ないわね……クッションとブランケットを持ってくるわ」
私のそばを離れかけた手を掴んだ。
「珠貴……」
「私だってわかったようね。いつも、静夏ちゃんが起こしているの?」
「いや、そんなことはないが。この前……」
「この前? なぁに?」
「いや、なんでもない」
「そこまで言って黙っちゃうの? ずるいわね」
ソファのそばに腰をかがめて、私の顔をのぞきこむ珠貴の口元が意地悪く
引き結ばれていたが、私の額に手をおくと
「疲れてるのね。もう少し寝た方がいいわ」 と心配する口元になった。
「膝を貸しましょうか」
「うん、頼むよ……」
立ち上がり私の頭を抱えて膝を滑り込ませると、珠貴はまた顔をのぞきこんだ。
「それで、静夏ちゃんと、この前なぁに?」
「ふっ、やっぱり聞くんだ……俺を起こしにきた静夏を君と間違えた。
珠貴かと言ったら、珠貴さんってだれ? と聞き返された」
「まぁ、そうだったの。だから静夏ちゃん、私にあんなこと言ったのね」
「あんなことって?」
「秘密」
「おい、それはないだろう。俺からは聞き出しといて、ずるいな」
「女はずるいのよ」
面白そうに微笑むと、私の唇に指をおき質問を遮った。