ボレロ - 第一楽章 -


「こんにちは。お邪魔します」


「まぁ、いらっしゃい。

連絡してくだされば、こちらからお迎えにうかがったのに」



華やかに微笑んで挨拶をしたのは、宗の妹の静夏ちゃんだった。

叔父と待ち合わせをしていたようで、二人がいつからこのように連絡を

取り合っていたのか

気になるところだったが、彼女がウチのブランドを気に入ってくれたのは

喜ばしいことだった。



「平岡さんを呼んできてください。

新作を何点か持参するように伝えてくださるかしら」


「珠貴さん、社員の方にも丁寧な言葉遣いをされるんですね。 

兄なんて、機嫌の悪いときだけ言葉が丁寧なの。それも不気味ですよ」


「宗一郎さんらしいわね。あのお顔で敬語を使われたら、さぞ怖いでしょうね」



静夏ちゃんとフフッと含み笑いをしていると、知弘さんが 

「君たち二人は姉妹みたいだ」 と、それこそ含みのある言い方をしながら

私たちを見ている。

叔父の言いたいことはわかる。

なぜ彼を諦めるのかと私に言いたいのだ。

軽く叔父を睨んだところに蒔絵さんがやってきて、その場の雰囲気は一変した。



「お待たせいたしました。デザインを担当しております、平岡蒔絵です」


「近衛静夏です。やっとお会いできました。

このピアス、とっても気に入っています。 

大叔母からもよろしくお伝えくださいとのことでした」


「こちらこそありがとうございます。

こちらまで足を運んでくださって、こんなに嬉しいことはありません」


「お名前、平岡さんとおっしゃるんですね。

あの……平岡さんと同じお名前ということは、

えっ、ご結婚なさったんですか?」


「いいえ、彼と偶然同じ名字だったんです」


「そうですか。えっと……兄がお世話になっています。

って、こんなご挨拶は可笑しいかしら」


「はは……そんなことはないと思うよ。

人と人の繋がりとは時に面白いものだね。 

3人がこうしてどこかで繋がっている。そう思うだけで楽しいじゃないか」



どうしても宗との縁を感じさせたいのか、また叔父が私を見て意味ありげに

微笑み、静夏ちゃんにも同意を求めて頷いている。

私の方こそ叔父に聞いてみたい。

静夏ちゃんとどうして親しくなったのかと。

その謎は、数日後にわかったのだが……




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