ボレロ - 第一楽章 -


シャワーの音が消えるまでに片付けてしまおう。

ベッドをおりローブを羽織ると、いつものようにシーツから着手した。

丁寧に皺を伸ばし、四隅に折り込んでいく。

ベッドカバーを広げ、ピローとクッションの配置がすんだとき彼が

部屋に現れた。



「またやってるのか 呆れた人だ」


「いいでしょう 私のしたいようにさせて 

いかにも何かありましたってのを人に見られるのが嫌なの

それでなくても 私が誰なのか知られてるのに……」



口を尖らせたまま彼の前を通り過ぎて、シャワールームに行こうとしたが、

濡れた肌を包んだだけの体に難なく捉えられた。

ローブからのぞく胸元の湿り気が、私の顔にしっとりと伝わった。



「知られたっていいじゃないか いつか俺のところに来るんだろう? 

珠貴の返事はもらったはずだが」


「私はそのつもりよ だから嫌なの 

この部屋 あなたの会社が年間契約しているって言ってたわね

ここは副社長専用の部屋よ あなた以外は使わない部屋だわ 

今までの人とは違うと思わせたいの」


「他はいない 珠貴だけだ」


「ウソ」


「ウソじゃない」


「本当に?」


「あぁ 本当だ」



宗の穏やかな眼差しが私に向けられる。

何のガードもない、私にだけ見せる本当の微笑み。

彼の首に手を回し 信じるわ とささやいた。





< 3 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop