ボレロ - 第一楽章 -
友人に打ち明けたことで、私の気持ちも軽くなっていた。
珠貴とは、いつ会っても気兼ねなく話ができた。
それは、彼女の持つ快活さゆえだろうが、私自身まったくといって良いほど
警戒心を抱かずに接していたことに、今更ながら驚くのだった。
軽い気持ちで接してきたわけじゃない、けれど、最初からパートナーとして
見てきたかと問われればそうでもない。
ではこのさき、珠貴とどうなりたいのか、どうにかしたいのか。
この答えは決まっていた……どうにかしたいが、どうにもならないのだ。
狩野が言うように彼女も家を背負っている。
それがわかっているから、彼女を深く追うことを避けてきた。
けれど、彼女に関わる男がそばにいるだけで癇に障った。
だから、彼女の夫候補が現れたと聞けば、誰であろうと横槍を入れてきた。
なんて子どもじみているんだ……
そう思ったが、今の私にはこんなことでしか珠貴と繋がっていられない。
遊びで付き合うつもりはないが、真剣になってはいけない相手だった。
今までのように、友人として接していければどんなにいいか。
男と女の間に友情は存在しないと言われるが、もっともだと思う。
惹き合う要素は、男と女では違うのだ。
男同士なら相手の資質や気性に惚れて友情が成立するが、
相手が女であるために、動物的に求める本能が発生してしまう。
そこまで考えて、自分の気持ちが見え、整理されてきた。
手の中のグラスを空にし狩野に差し出すと、彼は黙って注いでくれた。
ゆっくり考えろと言われているようでもあった。
狩野の言葉は私を素直にしてくれた。
大女将もそれは同じだった。
酒の美味しさなどわからないと常々言っているが、この日だけは冷酒を
上手いと感じ、友人の明るさに救われた夜だった。
珠貴とはどうにもならないと思い込んでいたが、跡継ぎの問題を解決すれば
良いことなのだ。
道は必ずあるはずだ。
これらは私の得意分野だ、情報を駆使し相手のことを調べつくし、次に打つ手を考える。
珠貴を手に入れるために、私の脳細胞は動き始めた。