ボレロ - 第一楽章 -


そんな女性が、これからどんな手腕を見せてくれるのか興味は尽きなかった。



「思いついたことではないの。

以前から、ウチの服地に合ったアクセサリーをと考えてはいたんです」


「それは君の考え?」


「えぇ、どこかのブランドと提携しようと思ってずい分調べたけれど、 

なかなかこちらの条件を満たすものに出会えなくて。

でも蒔絵さんにお会いして、これはと思えたの」


「それで、自社ブランドを立ち上げか。君も考えることが大胆だね」


「父にも同じ事を言われたわ。

でもね、私が事業に興味を持つことが嬉しいらしくて、

今回はとても乗り気ですの」


「親父さんの後押しもあるのか。それは頼もしいね」

 
「蒔絵さんを父に紹介してから、もう何度も会合を重ねて、

ずい分具体化してきたんですよ。 

お食事のあとで資料を見ていただきますね」



その時点まで、私も平岡も彼女たちの提示した案に意見を求められれば、

喜んで手助けをするつもりでいた。

こちらで出来ることは何だろうか、資金関係は万全なのか、それとも銀行との

交渉から始めるのか。

また、法的な手続きなど助けを求められた際には、それらに答えられるだけの

準備をこちらでも整えていたのだが、

企画書を見せられた私と平岡は、顔を見合わせることになるのだった。



「よくできているとは思うが、これでは利益が出るまでに

時間がかかりすぎるんじゃないか」


「その点は大丈夫かと思います。

イベントに絡めて大々的に広告を出す予定なの」


「イベント? どんな」


「それにはお答えできかねます。社内機密ですもの。

お二人には、これでもずいぶんお見せしたのよ 

あとは……ごめんなさいね」



手を合わせるようにして 「申し訳ありません」 と珠貴と蒔絵さんは

頭を下げた。

確かに我々は外部の人間であり、これまで事業提携を結んだこともない。

だが、多少なりとも彼女達の新事業に関わっていきたいと思っていただけに、

肩透かしを食らったようだった。 



「今日はお礼を申し上げたくて……

宗一郎さんがプレゼントしてくださったイヤリングから、 

こうして新しい事業が始められました。

蒔絵さんや平岡さんにも快く承諾していただいて、本当に感謝しています」


「協力できることがあったら言って欲しい。いつでも協力するよ」


「そのお気持ちだけで充分です。

でも、頑張れるところまで頑張ってみたいと思っているので……

ありがとうございます」



姿勢をただした他人行儀な挨拶が向けられ、珠貴に距離をおかれたようで

寂しさを感じた。



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