ボレロ - 第一楽章 -
いつも弱みを見せまいとする取り澄ましたような珠貴だが、そんな彼女よりも
少しでも優位に立ちたいと思う気持ちが私にはあった。
懸命に取り組むのはいいことだが無理はしないようにと、諭すように
言いながら男の余裕を誇示するように口付けた。
「おやすみなさい」 と言いかけた唇を塞がれたことが嫌だったのか、
私から無理はするなと言われたのが癇に障ったのか、
珠貴から挑むようなキスが返ってきた。
「私たち、いつからこんなキスをするようになったのかしら」
口角をあげ、ツンとすました笑みを浮かべた彼女の顔は、どこまでも
私と対等でいたいらしく、別れ際の甘い雰囲気の中でも、気分に
酔ったりしないのだという意地が見えた。
珠貴からもらったチョコレートを、毎日ひとつずつ口に放り込む。
苦味と甘さが絶妙に絡み合い、舌の上でゆっくりと溶けていく様は、
まるで私と珠貴の関係のようだ。
女性は守るべき対象だと思っていた私の常識を覆したのは珠貴だった。
守るように懐に抱え込むつもりが、気がつくと珠貴を追いかけている
自分に気がつき、それも悪くないものだと最近思えるようになっている。