ボレロ - 第一楽章 -
私の家は、代々情報関係の職に就く者を輩出している。
また、社内にも独自の調査機関を持ち、他には決して負けない情報を持ち合わせていると自負していた。
サロン情報だと?
そんな確実性のない情報で、会社の大事を決めるわけにはいかない。
女の浅はかな考えだと一笑に付すつもりだった。
「近衛さん、今お腹の中で笑っているでしょう。女のおしゃべりから得た情報なんて馬鹿げてるって」
「そのとおりだよ。どう考えても不安材料は見当たらない。
乗せてもらって申し訳ないけれどね」
「女性は、そういう場所で情報を掬い取って、男性と違う視点で物を見るんです。
そうは言っても、ほとんどの女性は自分の興味のことばかりですけれどね。
でもね、中にはいるんですよ。きちんと社会の仕組みをわかって、ああいった場所に行く女性達がね」
「じゃぁ、君の言い分を聞こうじゃないか。そこまで言うんだ、よほど自信があるんだろうな」
もうすぐホテルが見えてくるはずだ。
そうすれば、女の他愛のない話など途中で切り、「悪いが時間がないので、また」 と失敬するつもりだった。
ところが……
そうはならなかった。
今、思い出しても彼女の自信に満ちた顔が、鮮明に浮かんでくる。
私の驚いた顔に、勝ち誇った目を向けたのには少々腹立たしかったが、それも、彼女の話を頭から否定して聞いていた私の、やっかみだったのかもしれない。
彼女は、今後の人生に大きく関わってくるだろと私の勘がいう。
いや、関わっていたいと願ったのが私の本心か。
それから、彼女を追かけ何度となく出会うよう、見せ掛けの偶然を生み出すための、私のあらゆる努力が始まった。
須藤珠貴……私の人生を大きく変える女性になっていくはずだ。