恋人ごっこ
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「…」


歩みを止めて前を見つめる。
正確には、前方に続く道路の上。


「…何?」


首をかしげながら、あたしは無意識に疑問を言葉にした。
目の前には、うつ向きで倒れている黒い物体。
多分、人間。


「…もしもーし」


近寄って、顔の見える側にしゃがみ、口に手を添えながら声をかけてみた。
よく見ると、女子が羨むであろう程の睫毛の長い、整った顔の男の子だった。
返事がない。
念のため、鼻と口の前に片手をかざす。
息のあたる感触がした。よかった、生きてる。



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