恋人ごっこ
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「…待って、おかしい、おかしいよ」


やっと言葉に出来たのは、彼の言葉を否定する言葉。


「だって、初めて会ってからまだ…二ヶ月くらいで、あたしは君に助けてもらったりとかしたけど、でもあたしは何もしてなくて、なのに好きって」


「和葉さん」


「、」


あたしは、抱きしめているクッションに力を加えながら、今までを振り返るように言い並べていたのを、彼に名前を呼ばれることで停止した。
顔を上げると、いつの間にか目の前に仙崎がいた。


「落ち着いて」


「無理、落ち着くって無理だよ。
何がどうなってあたしを好きとか言えるの?
あたし、君に何もしてあげてないのに」


意味がわからない。
どうしてあたしを好きになったの。
今までの過程で、あたしは何もしてないのに。


「じゃあ落ち着かなくていいから、とりあえず俺の話聞いて。」


諭すように話しかけてくる彼を、あたしはしっかりと瞳に映した。
そういえば、あたししか喋ってない。
小さく深呼吸すると、仙崎は結構近くにいることに気づいた。
彼は、あたしのいるソファーの前のカーペットに座ってこちらを見ていた。

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