恋人ごっこ
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その言葉に、「うそ…」としか言えなかった。
だって、あたしには心当たりがない。


「あたし知らない、どこで」


「学校出たすぐそこで」


「学校………?」


少しパニックな脳内を整理しながら過去を巻き戻す。

学校のそばで、彼を拾う前。


「…けっこう前?」


「最近です。ここ二ヶ月くらい」


二ヶ月くらいってことは、あたしが3年になってからだ。
かったるい式に出て、クラスで滝本君に捕まって、帰りに桜を見て……。


「……桜?」


桜を見て、散る桜が好きではないと話して、それから、


「肩、肩がぶつかった。前から来た人と………」


由梨が走ると言うから、あたしもそれを追いかけようとして。


「まさか………君?」


「ごめんなさい」と「すいません」の、たった二言の会話。
彼の顔を見ると、今まで以上に、酷く優しく笑っていた。


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