恋人ごっこ

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「そう､それ俺｡俺が初めて貴女に会った時｡」


サラリと言う彼に､あたしは目を見張った｡

だってそれじゃあ､彼はずっとずっと前から､あたしが彼を好きになる前からあたしを好きだったってことになる｡


「ただすれ違っただけで､他のものが全部見えなくなったんです｡
一目惚れ､ってやつ」


「だ､で､でも､それならどうして恋人ごっこ､なんて」


「貴女の視線の向く先に先回りするためです｡」


しどろもどろに問うと､きっぱりとした返事が返ってきた｡
目と目が合って､そらせない｡


「俺は1年で貴女は3年で､同じ学校っていう敷地内にいるのに､二歳の差は大きくて､遠いんです｡
だって貴女はすぐに卒業して､俺の知らない世界に行ってしまう｡
同じアパートに住んでいても同じことで｡
そりゃ少しは知ってもらえるかもしれないけど､そんなの嫌だ｡
だから､貴女に恋人ごっこを持ちかけた｡
貴女に俺を見てほしくて｡」


「そんな…そんなの………」


頭の中の整理がつかない｡
だって知らなかった､彼がこんな気持ちを隠していたことを｡


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