恋人ごっこ
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「和葉さん」


あたしの名前を呼びながら、彼の指があたしの涙を拭った。
ぼやける視界で、そちらを見る。


「和葉さんは俺といるの、嫌?
一緒に歩いたりとか、こうやって触れたりとか。」


彼の問いに、あたしは無言で首を横に振る。


「じゃあさ、そこからまた始めようよ」


「……?」


にっこり笑っていう彼の言葉が理解できず、あたしは眉間にしわを寄せた。
それに気づいたらしい彼は、言い直す。



「恋人に、してくれませんか?」



「っ!」


真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに言われた言葉に、ありえない程心臓が跳ねた。
息を呑んだため、一瞬涙も止まった。


「和葉さん?」


催促するようにあたしを呼ぶ彼は、また笑う。

頭の中の整理はまだつかなくて。
心臓の音が大きく響きすぎて、もう何がなんだかわからない。
でも、あたしは、



「は、い…」



ゆっくり、だけどしっかり頷いた。



To be continue...

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