恋人ごっこ
.




「はいゴール」


タイマーの横にいた体育教師が言った。
そうか、一番恨めしいのはこいつだった。
息を切らしながら少しだけ睨んでみるが、先生はもうまだ走ってる生徒に目を向けていた。


「もうやだ」


「はいはい。ほらタオル」


「ありがと」


由梨がグランドにおいておいたタオルを取ってくれた。
あたしはまだ座れない。
熱がひくまで歩く。


「あつー…」


ジリジリ照りつける太陽。
本当に今は4月なのだろうか。
トラックにはまだ走ってる生徒。
大変そうだなぁと他人事のように思っていると、


「……え?」


視界のふちに入った人間に、あたしは足を止めた。
瞬間、首や顔から汗が滲む。


「和葉?どうかし―てどこ行くの?!」


「すぐそこ!」


由梨があたしの異変に気づき声をかけてきたが、あたしはそう簡単すぎる答えを言って、タオルを右手に走った。


.
< 21 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop