恋人ごっこ
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「あーもうっ、離してって言ってるでしょ!?」


「だから諦められな…」


「うわ」


不意に違う力に引っ張られ、あたしは驚きの声を上げた。
気づいたら、


「…仙崎?」


今度は仙崎の腕の中にいた。


「仙崎、なに」


「しーっ」


抗議しようと顔を上げると、仙崎は人差し指を口元に当てて小声で言う。


「静かにしてて、助けてあげますから。」


そう言って笑ってみせる彼に、あたしは黙る。
そして、仙崎の顔を見つめる。
じーっと彼の目を見ながら、考える。


前者のハグは、"固執"の意。
後者のハグは、"救助"の意。
どちらを選ぶかなんて決まってる。


あたしは黙ったまま、仙崎の胸に頭を寄せるようにして、大人しくすることにした。
その際、彼の手が頭に触れた。



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