恋人ごっこ
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「ふ、ぅ」


「和葉さん?」


「ぷはっ」


仙崎が腕を緩めたのとほぼ同時に、あたしは肺に空気を送った。


「あ、ごめん。」


軽く謝る彼を、少し睨んでみた。


「…あれ、滝本君は?」


周りを見るが、彼の姿はない。


「さっきの人ならもう行きましたよ。」


「え、あいつ諦めたの?」


「みたい。」


顔を上げて尋ねると、なんとも曖昧な言葉が返ってきた。
なんなんだこいつは。


「…助けてくれてありがと」


一応お礼を言う。
でもどうして。


「なんで助けてくれたの?」


彼の顔を見つめながら聞いてみた。
普通なら男女のいざこざに入ろうとは思わないだろうに、何故彼は率先して助けてくれたのか。



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