恋人ごっこ
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「駄目ですよ、さっき倒れたばっかなんですから。」


「だからってこれは嫌だっ」


あたしは暴れながら抗議する。
だって駄目だろうこれは。
こんな、お姫様だっこなんて。
背中と膝下に回された彼の手に、動悸が早くなった。


「病人が文句言わないでください。
これから帰るんですから」


「帰る?この体勢で?」


「はい。」


「嫌だっ、本当に嫌だってば!
お姫様だっこなんてあたし死ぬからっ。ね、せめておんぶで!」


腕で突っ張りながら反抗する。
このままの体勢で外になんか出たら注目の的じゃないか。
無理だ。そんなの耐えられない。


「…仙崎、このまま外に出たらあたし舌噛んで死ぬよ。」


「じゃあその前に口塞いであげますよ。」


「はぁ?!」


「冗談です。」


「…」


もう本当になんなんだ。
どうしてあたしはこんなに振り回されてるんだ。
あたしをベッドに下ろす仙崎を睨む。
楽しそうな彼が無性にむかついた。


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