恋人ごっこ
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「っ、はぁ」


グランド側の壁にもたれ、あたしは崩れるようにして座り込んだ。
目の前に広がるグランド、部活をする生徒。
胸を押さえるようにする。
いきなり走ったから、肺が痛い。


[…先輩、仙崎君のこと大好きなんですね。]


「、違う」


さっきの言葉が、頭の中で反芻する。
それを言葉にして否定する。


「違う、違う、好きなんかじゃない…」


繰り返す。もう一度境界線を引くために。
たったの一言で消えそうになっている、白線をもう一度引くために。


「違う……」


「和葉さん?」


体操座りで頭を膝に寄せていると、前方から名前を呼ばれた。
あたしをこんな風に呼ぶのはあいつしかいないから、顔を上げなくても誰かわかった。


「…仙崎」


「どうしたんですかこんな所で。
探してたんですよ、教室にいないし。」


「…なんであたしを探すの。」


「なんでって…一緒に帰るって約束でしょう?」


約束。
うすっぺらい紙さえない、ただの約束。
なんて、儚い関係だ。



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