恋人ごっこ
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由梨の家から駅までの道は、帰宅する人間の濁流だった。
それに逆らって合間を縫って歩く。


「…」


どうして由梨は、あんなことを言ったのか。

別に変化などない。いつもと変わらない。
ただ、周りにいる人間の数が増えただけだ。
ただ、誰かと一緒にいる時間が増えただけだ。

ただそれだけのことで、何かが変わると言うのだろうか。


「せん…ざき」


騒音に消されてしまうような小さな声で、ゆっくり彼の名前を口にした。



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