恋人ごっこ
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「和葉さん」


不意に名前を呼ばれ、あたしはドキリと肩を揺らしてしまった。
その場で立ち止まり、顔を上げる。
その先に、駅前の方からこちらに走ってくる彼がいた。


「やっぱり和葉さんだ。」


少しだけ息を切らしながらあたしの前で止まった彼は、フニャリと笑った。


「……なんで君はここにいるの。一人で帰れって言ったじゃん」


あたしはただ、驚きながら小さく責めることしかできなくて。
すると彼は頭をかきながら、


「や、帰ろうとしたら、えと、ここまで来ちゃったんです…」


間抜けな返答をしてきた。


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