恋人ごっこ
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図書館に来るのは久しぶりだ。
去年は何を思ったのか、ヤケにここに通った。
多分、初めてここで読んだ絵本が、あたしに衝撃を与えたからだった気がする。
それからは、いろんなジャンルに手を出した。
だから、ここの本の並び順については、図書委員より正確に言える自信がある。


「あった」


絵本を手に取り、陽があたる窓際の隅にもたれ、ページを開く。
タイトルは、『ひとりぼっちの僕』。
最後には特別な人を見つけてひとりぼっちじゃなくなるっていう、簡単に結末がわかってしまう絵本だ。

でもそれが、あたしには何故か強く響いてしまって。
多分自分とかぶらせて読んだんだろう。
いつかあたしも、一人じゃなくなるって思ったんだと思う。
いつかあたしも、特別な人を見つけられるって思ったんだと思う。


「…これ欲しいって言ったら先生くれるかな」


思ったことを呟き、裏返して値段を見る。
これぐらいなら今あるし、値切ればいいし。
そんなことを考えながら、目に入った高い桜の木の枝が揺れてるのを見て、肌寒いかなとか考える。


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