恋人ごっこ
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「…あれ、仙崎」


ふと視線を下に向けると、仙崎がいた。
こんな、風がびゅんびゅん吹いてる中で、何してんだあんなとこで。
あたしは眉間に皺を寄せながら、目を凝らす。


「…ああ、そういうこと。」


あたしは納得して、少し笑ってしまった。
少し体をずらすと、死角になっていた場所には女子生徒。
他には誰もいないし、リンチとかそんなのではないだろう。
多分、告白。


「だから先帰れって言ったのね」


そう呟きながら絵本を閉じ、その場から離れる。
あれは、あたしへの配慮だったんだろう。
絵本をもとの場所に戻し、図書館をあとにする。


ああ、どうしてあの時、「わかった」とうなづくことが出来なかったんだろう。


彼が見えるここから、早く逃げたかった。


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