抱えきれないほどの愛を君に
――看護師さんが出ていった後も楓ちゃんとは話す事もなく、気づけば太陽も傾いていた。
しばらくすると、検査の時間が来て、看護師さんに車椅子に乗せてもらい病室から出ようとドアを開けたすぐ先、
そこには、目を見張るほどの綺麗な男の人が立っていた。
後ろから「お兄ちゃん!」と楓ちゃんの声が聞こえたので、おそらく、この男の人は楓ちゃんの兄だろう。
――柔らかそうな栗色の髪。切れ長の優しそうな目。スーっと通った鼻筋と薄い唇。
綺麗な顔の優しそうな人だった。
しばらくぼーっと見つめて居ると、後ろから
「楓ちゃんのお兄さんかしら?」
と聞こえた看護師さんの声にハッと視線を下に逸らす。
すると看護師さんの言葉に返すように
「はい。妹が今日からここに入院すると聞いて。兄の本郷渉(ショウ)です。」
心地よいテノールボイスの声が聞こえた。
すると、「そちらは?」と今度は彼から話しかけてきた。
多分、私の事だろう。
看護師さんはなかなか答えない私を気遣ってか
「この子は楓ちゃんと相部屋の神崎早苗ちゃんよ。」
と、変わりに自己紹介をしてくれた。
ゆっくりと差し出された手が視界に入り、ふと視線をあげると、あの男の人――渉さんが私に手を差し出していた。
ーー握手だろうか。
そっと手を差し出すと優しくでもしっかりと握り返され、
「よろしく、早苗ちゃん」
と、あの優しい声で微笑みながら言うと、病室に入って行った。
私も看護師さんに車椅子を押され、病室を後にした。
――渉…?今思い出すと、あの時から私は貴方にどこかひかれていたんだね‥‥―