ファム・ファタール~運命の女~
彼とやってきた図書館で。
「図書館内は禁煙ですよ?」
私の問いかけに、今日も同じ答えが返ってくる。
「ああ。でもここは外だし、誰も来ないからいいでしょ?」
目を細めて柔らかく微笑む色っぽいその人は、フランス文学の准教授、森部 隼人。
若くして准教授になった彼は、この図書館の非常口を、学生時代から愛用しているらしい。
もともと色素が薄いであろう、明るい色の柔らかそうな髪に、日の光で鳶色に見える瞳。
無精髭まで茶色くて、返ってきた返事が日本語じゃなかったとしても、違和感はない。
「今日も彼氏に付き合って来たのかな?それとも……僕に会いに来た?」