カノン
―…
「………リアちゃん、
髪の毛 切ったんだね」
景さんが急遽 予約してくれた お店の個室で向かい合って座った時、
開口1番、目を細めた景さんは言った。
「…あ、やっぱ変ですか…ね 笑」
視線が注がれているのが恥ずかしくて、思わず髪を ぐしゃぐしゃ と しながら そう言うと、
景さんは例の、困ったような…それでいて優しい笑みを浮かべて、
首を ゆっくり、横に振った。
「元々 可愛かったけど…」
「え…?」
「……長くても可愛かったけど、
切っても可愛い。
…てか、似合ってる。
個人的に俺は そっちのが……好き」
「…………」
景さんに″好き″って言われて、
一瞬 言葉が何も出なくなった。
ついでに ぐしゃぐしゃ していた手の動きも、
見事に止まってしまった。
…顔は自分では見えないけれど、
きっと真っ赤、だろう。
実は長い髪をバッサリ切ったのは、
所謂 決意表明みたいなもので…、
退職届を出したり、景さんに会う勇気を振り絞ったりする時に、
気合いを入れる為だった。
正直 自分に1番 似合う髪形を…とか、そういう事を考えて切った訳では なかったから、
寧ろ他人の評価は悪いんじゃないか と、思ってた。
だから まさか それを景さんが褒めてくれる なんて……、
夢にも思わなかった。
何だか泣きそうな あたしに、
景さんは信じられない位 優しい顔で微笑った。