カノン
景さんの目を見つめたまま固まって、尚且つ今にも泣き出しそうな あたしを見て、
景さんは微笑みながらも、困ったように眉毛を下げた。
そして優しく ぽんぽん と、あたしの頭に手を置くと、
気持ちを切り替えるかの ように、明るく言った。
「…じゃあ……
リアちゃん泣いちゃう前に、俺の話でも するか 笑」
「……?」
「ほんとはリアちゃんの″今 伝えなきゃ いけない話″ってのを
ちゃんと聞こうと思ってたんだけど…
今のリアちゃんに何か話せ ってのも酷みたい だから。
代わりに、
俺の武勇伝でも聞いて貰うかな~ 笑」
「武勇伝、ですか…?笑」
″武勇伝″という言葉に縁の無さそうな景さんの その台詞に、
思わず笑いながら返すと、景さんも楽しそうに笑った。
「…そう。
色々あるよ~ 笑
それとも何か…
訊きたい事、ある?」
「訊きたい事……」
訊きたい事は……ある。
本当に…
彼女さんが居るかどうか とか、
サナギさん との本当の所の関係とか。
自分が傷付かない って保証が あれば、
いくらでも訊きたい。
でも…。
そんな勇気は持ち合わせていなくて、
あたしは急いで その考えを、打ち消した。
そして何か別の訊きたい事を、一生懸命 思い浮かべよう と したのだけれど…、
″当たり障りの無い質問″は、なかなか思い付かなかった。
「…えっと……」
何にも浮かばなくて、困って顔を両手で むぎぃ と 潰しながら そう言ったら、
その顔が面白かったのか、景さんは また優しい顔で、微笑った。
「…無理矢理 考えなくていいし 笑
そうだな、じゃあ…
訊かれてないけど、どうしてバンドを やろう と 思ったのか…とか、
俺のヒストリーでも勝手に話そうか 笑」
「は、はいっ」