カノン
「…あ、いや違う!
えーと…
このホテルなんですけど……」
少なくとも今晩は泊まる場所が あった事を思い出して、
サナギさんに携帯の地図を見せる。
サナギさんは少し不思議そうな顔をして、携帯と あたしの顔を交互に見た。
「リアちゃん…
今日は たまたま東京に遊びに来てたから、
景と会ったんですか?
それとも…
景に会いに、東京に来たんですか?」
「え…?
え…っと…」
「ごめんなさい、ちょっと気に…なったから。
答えにくかったら、無理に答えなくても いいですよ 笑」
答えに詰まった あたしを見て、サナギさんが慌ててフォローするように、言った。
「…あ、何か ごめんなさい…」
答えにくい訳では なかったけれど、
少しでも話したら、なぜかサナギさんには全てを見抜かれるような気がして…、
何も、言えなかった。
もしかして…、
あたしは景さんの時も同じ事を考え、判断をして、
何も話さなかったのかな…?
サナギさんが運転してくれる車の中で流れる景色を見ながら、
ぼんやり と そんな事を、思った。
よく考えたら、
只でさえ勇気の要る事だったから、
いざ景さんを目の前にして、スムーズに言えてる可能性の方が低い。
記憶が その部分だけ綺麗さっぱり抜けているのは、
そんな自分が嫌で、自分自身が無理矢理 記憶を消しちゃってるから…なのかも、しれない。
「………」
言っても言わなくても後悔するなら…、
思い切って言っちゃえば よかったなぁ~……。
いつの間にか流れる景色は止まって、
気付いたら、サナギさんが あたしの顔を覗き込んでいた。