カノン
この前は、同じ台詞を言って断られたから、
"また断られるんじゃ ないか"って不安が あったけど、
他に掛ける言葉も見付からなくて、君を少しでも繋ぎ止めようと、その場しのぎに そう言った。
君は困ったように目を泳がせたけど、
今度は"ファンの子に見られたら困るから"なんて理由で、断る事は しなかった。
ただ その表情は、何だか複雑そうに見えた。
…本当は"家 来る?"って言いたかったけど…、
あの部屋には まだ奴が居るんじゃないか って考えが頭を掠めて、言えなかった。
「……ヒカリさん…、
やっぱり誰かに見つかったら大変だから。
何処か お店に入るなら、個室が…いいと思います」
その時、
聞き逃しそうな小さな声で、君が口を開いた。
「この辺で、個室が ある お店…ご存知ですか?
もし なかったら…
さっきの お店に戻る なんて事、出来ますでしょうか…」
君は何か考えながら そう続けて…、
小さく首を傾げた。
「全然いいよ、戻ろう!
…ちょっと電話して訊いてみる」
俺が慌てて電話を取り出したのを見て、
君は申し訳なさそうに、眉毛を少し下げる。
もしかしたら君は…、
俺が到着してから ずっと、困っている のかも…しれない。