カノン
「リアちゃん……
…待って!」
君の笑顔が悲しくて立ち尽くしてた俺が、ようやく我に返って伸ばした手を、
君は するり と、綺麗に すり抜けた。
「リアちゃん……」
もし、自分の気持ちを言うことが あるなら、こんな"ついで"みたいな形じゃなくて、
改まった場所で、ちゃんと伝えたかったけど…。
…仕方ない。
俺は少しずつ離れて行く君の背中に向かって、声を掛けた。
「…俺も…
言いたい事が…あるんだ。
そのままで良いから…、聞いてくれる?」
そう言うと、君は一瞬ビクっ と 体を震わせて、立ち止まった。
これから何を言われるか、見当も付いていないだろう けど、
人の台詞を絶対 無視 出来ない君は、言われた通り その姿勢のまま、俺が話し出すのを待ってくれている みたい、だった。
「…好きだ。
俺も、世界で唯一…君だけを、愛してる」
「!?」
途端に、君は真ん丸な目を更に丸くして、振り返った。
そして"信じられない"と言うように、何度も瞬きを繰り返す。
「まさか…。
ヒカリさんが、あたしを……?」
そんな君に、
多分 君と同じ、困ったような笑顔が…自然と浮かぶ。
「…ごめん。
さっき…、
個室で、"この前が初対面"って言ったのは実は嘘、で…。
リアちゃんは憶えてない、かも だけど…(笑)
本当は
バンドも何も やってない頃…、
それ位 昔に、会った事が あるんだ。
その時から ずっと…
君だけを、……愛してる」