カノン
でも…逃げる訳には、行かなかった。
社長に『連れて来い』と頼まれたサナの立場も なくなるし…
何よりも、彼女に冷たくし切れなかった自分への、代償だと思った。
「………サナ」
「ヒカリさん……」
修羅場に向かおう と、覚悟を決めてサナに声を掛けたんだけど…
サナは なぜか止めるように俺とドアの間に立って、俺を見上げた。
「私……
ただ、大変な状況をヒカリさんに お伝えしよう と 思って急いで来ただけで、
ヒカリさんを そこに行かせよう とは思ってません!
社長には『ヒカリさんは居なかった』と言いますので…
…出て行かないでください」
「え…?」
「社長も、楓さんの前で建前上『連れて来い』って言っただけで、
私が、ヒカリさんが事務所に来ていない って言えば、それを言い訳に楓さんを帰してくれる と 思います。
だから…
大丈夫、です。
私に任せてください!」
「……」
そう言うと、サナは飛び出して行った。
サナって時々、……カッコいい。