カノン




スタジオで落ち着かない気持ちで待っていると、サナが ほっ とした表情を浮かべて戻って来た。




読み通り社長は、彼女の前で演技を してくれていた らしく、

サナが"ヒカリさんは居ない"と言うと、"…だそう だから、今日は もう諦めて帰りなさい"と諭してくれたそう、だ。






「……そっか。


サナ、…さんきゅ」




「とんでもない です!


後で、社長にも お礼を言わないと…ですねっ」




どこか弾んだ調子で そう言って、サナは仕事に戻って行った。






…さて、

俺も仕事の続き やんなきゃな……。




サナを見送ると、気持ちを切り替えてスタジオの中を見回した。






事務所の中にある、ちょっとした仕事を するのに便利な こじんまり としたスタジオは、

誰が使っても いいんだけど、設備が そこまで本格的に整ってないから楽器隊が使う訳でも無く、ほぼ俺 専用みたいに なってしまっている。


楽器隊は自宅がスタジオみたいに なってるけど、

俺はヴォーカルだから、家 普通だし。


でも曲は作るから、この位のスタジオがあると ちょうど良くて。


ついでにパソコンを持ち込んで、家で出来る作業も一緒に やってしまっている。




今はツアー中だけど、

中日で、しかも東京から日帰りで行ける場所を回っているところ だから、

誰も居ない家に いちいち戻るよりも、誰かが居る事務所に仕事をしに来た方が何だか安心するし…、


それに 好きな仕事を している場所だから、ある意味 家よりも このスタジオには愛着が ある。




明日のライブも日帰り出来るから 旅行の準備 要らないし、

何なら ここから直で行っても良いくらい。


家に帰るだけ、時間の無駄かも……。





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