カノン
それから、あれよ あれよ と 言う間に物事は進んで行き、
気付けば、入院する事に なっていた。
診断は、ヴォーカリストの間では よく聞くポリープ。
位置が悪いから、取らずに一時的な処置だけを施し、
様子を見る事に なった。
取らないと言う事は、また突然 声が出なくなる事も あるみたい なんだけど…
それ以上に取った時のリスクの方が俺にとっては大きいような気がして、
最終的には自分で、取らなくて いい という、決断をした。
喉の具合が悪いだけ だから体力的には弱ってないんだ けど、何だかんだショックが大きくて精神的に参ってしまった みたいで、
来る日も来る日も、ベッドの上で考え事を しながら ぼーっ と、過ごした。
サナは やる事の合間を縫って毎日 来てくれたけど、やっぱり何て声を掛けて良いか分からない みたいで…
特に何かを話す訳ではなく、文字通り"顔を見るだけ"という感じ だった。
社長や…あの現場に居たスタッフも お見舞いに来てくれたけど、
皆が皆『気付かなくて ごめんと』と、なぜか俺に謝っていく。
本当は謝らなければ いけないのは俺の方なのに…
誰も謝らせて くれなくて、俺の気持ちは行き場を失っていた。
そんな時…、
サナがファンレターを持って病室に現れた。