カノン
「逆にヒカリさんの重荷に なったら困ると思って、なかなか持って来られなかったんですが…、」
そう前置きして、サナは色とりどりの便箋が溢れる紙袋を、目の前に置いた。
「…でも、ファンの子の気持ちを置いてけぼり に する訳には いかない…
もし私がファンだったら、ヒカリさんの近くに連れて行って欲しい、と 思うと…思ったので」
そう言って、笑った。
「……ありがとう」
俺の事を心配してくれている手紙は勿論 嬉しかったけど…
優しい言葉を掛けられれば掛けられる程、申し訳ない気持ちに なって…。
ブログやTwitterを通して謝っても、ファンからは"謝らないでください"という反応が返って来たりして、
まるで、優しい言葉を掛けてくれるのに こっちの気持ちは受け止めて貰えないような……そんなジレンマで、
心は相変わらず、行き場を失っていたから。
だから…
サナが届けてくれた手紙も、手紙を くれる事 自体は本当に ありがたい と 思っているのに、
読めない日も あった。
…そんな中、1通の手紙が目に止まって…
頭で考えるよりも先に、手が伸びていた。
『景さんへ』
シンプルに それだけが書かれた、便箋。
吸い込まれるような字に目が離せず、暫く見つめてしまった。
「この字……」
我に返って裏返してみる けど、差出人の名前は無い。
でも俺には、…分かった。
「字も、変わってないんだ…」
思わず声に出して呟く。
便箋からは、俺の大好きな…君の香りが、した。