カノン
-05
「…ちょっと、何処か入って話そうか?」
何とか君を繋ぎ止めたくて咄嗟に そう言ったんだけど…、
君は思い切り、俺の手を振り解いた。
「…!!
リアちゃ……」
「あのっ…!
もしファンの子に手を繋いでる所を見られたら…、
…誤解されます!
こんな、
東京みたいに人の多い所で、お店に入るのは危険です…!
あたし…
よく考えたら、友達 置いたまま来ちゃってるし…。
…会場に、戻ります!」
名前を呼び掛けた俺に、君は正論を並べ立てて、
少しの隙間も残さず、走り去ってしまった。
今 思えば、
あの時、いくらでも君を追い掛ける事は、出来た。
でも その1歩が踏み出せなかったのは……
10年以上 前、君を初めて好きに なった時から ずっと感じてた、
心の距離が はっきり、見えたから。
ずっと、君の側に居たけど
でも、物理的に どんなに近くに居ても、
君の心が俺に向く事は、なかった。
そんな現実を、
君が走り去る姿を目の前で見せられる事で、改めて突き付けられたような気がして…、
俺は ただ、君の後ろ姿を見つめて立ち尽くして居たんだ。