カノン
そうだ、出られないのは トイレの中に居るから って事も考えられる。
―…トイレ、行ってみる…?―
いや、そりゃ最早ただの変態だ 笑
人生が狂っちゃう。
でも だからと言って、
公演後まで待ってたら、今トイレに居る人なんて比に ならない位、沢山の人が溢れてリスキーだし……。
…何て事を考えていた その時。
会場が暗転して、突如 本番が始まった。
続いて起こった地鳴りのような歓声を合図に、
人が どんどん客席に戻って来る。
…チャンス!
照明が落ちてて お客さんの顔までは よく分からないけど、
さっき君が居た、真ん中辺の席に戻って来る人影は、無い。
…という事は 君は まだ…。
自分の推理に少し期待しながら、
関係者席を抜け出して、人に見つからないように気を付けつつ、通路を進んだ。
そしてロビーを見渡せる、2階の階段の上まで来た時…、
…ロビーに立ち尽くす君を見つけて、俺は周りも気にせず、一気に階段を駆け降りた。
「リアちゃ…」
…呼び掛けて、止まる。
君は携帯を じっ と 見つめたまま、微動だに しなかった。
当然 俺が近付いた事にも、気付いてない。
―もしかして、
電話を掛けよう と してくれてるの、かな…―
君の迷うような表情を見て、そんな風に思った。