カノン




「………。




景さん…?」




「…何、どーした?笑」






頼りない、あたしの声に

景さんは包み込むような優しい声で、返してくれた。




その声を聞いて、

あたしは景さんに、全てを話してしまいたく…なった。








「……景さん。




あのー……、


…忘れるには、どうしたら良いと、思いますか…?」






…気付いたら、そう言っていた。


景さんは少し驚いたような表情で、あたしの言葉を繰り返した。






「……忘れ、る…?」




「…はい。


あたし…普段、すっごい忘れ物ばっかなのに、

…忘れたい事ほど、忘れられなくて…。


忘れたい事を忘れるには、

どうしたら、良いですか…?」






…そう言うと、

景さんは切なくなる位 綺麗な顔で、微笑った。






「みんな そう、だよ。


忘れたい事ほど、覚えてる。




…でも それは…、

″忘れたくない″って いう気持ちの

裏返し、かもしれない」




「………」






「″どうでも良い″って思ってる事って、

すぐ忘れる でしょ?


他人には大切でも、自分の脳の中で″どうでも良い″って思ってたら、

いつの間にか、他の記憶に埋もれてく」




「………」






「忘れられない って事は、

少なくとも それは″どうでも良い事″じゃない…。


だから、

無理に忘れよう と しなくて良いんじゃない?」




「………」






無理に、忘れよう と しなくて良い…。


その言葉は不思議な力を帯びて、

心の中に溶け込んでいった。




ただ…穏やかに話す景さんに、

今までに出会った誰にも感じた事の無い、安心感を…覚えた。





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