カノン
「……あ、今日は
クラウドさんファンの友達に誘って貰って、来たんです。
景さんは……、」
「……俺も、誘って貰って…来た。
てかクラウドのメンバーには、前から声 掛けて貰ってたんだけど、
いっつも″行けるか どうか分からない″って返事ばっかで、
悪いと思ってて…。
今日…東京だったし、
予定してたレコーディングが なくなって、たまたま空いてたから」
慌てて会話を終わらせよう とする あたしとは対照的に、
景さんは何か考えるように、ゆっくり、言った。
「そ、そうなんですか~。
ところで景さん、会場に戻らなくて いいんですか?
ライブ、もう始まってたみたいでした けど…」
「…うん。
今日は、もう いい」
「…え…?」
あたしの予想に反して、
景さんは きっぱり と、言い切った。
「…今日は もう、
クラウドのライブは、観ない」
「え、でも…、
やっと、観に来られたライブなんですよね?
クラウドのメンバーさんも、楽しみにしてた と 思いますよ…?」
「………ライブ観られなかった事は、
後で謝っとく。
また きっと、チャンスは ある と、…思う。
でもリアちゃんには…、
あの時 声 掛けなかったら、
もう2度と会えなかったかも…しれないから」
「………」
出来るだけ早く会話を終わらせよう と 思っていたのに、
景さんの台詞に、固まってしまった。
何で景さんは、
″あたし″に、そんな事を言うんだろう…?
『2度と会えなかったかもしれないから』って、
どういう意味で言ってるんだろう…?
不安と期待が入り交じって、
でも不安の方が やっぱり強くて…、
あたしは景さんの言葉を、
素直に受け取る事が…出来なかった。