カノン
―…
「…ちょっと、何処か入って話そうか?」
景さんが、また あたしの手を引いて、そう言った。
…でも。
こんな所 誰かに見られたら、困るのは景さんだ…と思って、
慌てて その手を振り解いた。
「…!!」
景さんは少し驚いたような顔で、あたしを見た。
「あのっ…!
もしファンの子に手を繋いでる所を見られたら…、
…誤解されます!
こんな、
東京みたいに人の多い所で、お店に入るのは危険です…!
あたし…
よく考えたら、友達 置いたまま来ちゃってるし…。
…会場に、戻ります!」
ほぼ一方的に喋って、その場を後にした。
…少しでも立ち止まったら、駄目だと、思ったから。
少しでも、景さんの顔を見て喋ったら、
多分、引き止められてしまう気が…した。
直前の、景さんの驚いたような…何とも言えない表情が
脳に焼き付いていたけれど…、
それを振り払うように、会場まで走った。