カノン




「さて…と。


全部 洗いざらい、話して貰うよ~!!」




ライブが終わると、

ライブ後 特有の、テンションが上がったままの状態で、

聖良ちゃんが言った。


でも…正直、

″プライベートで盤メン(バンド メンバー…主にヴィジュアル系バンドのメンバーを指す時にファンが使う言葉)さんに会った″なんて話は、

V盤(ヴィジュアル系バンドの略語)ファンが たくさん居る この場所では出来なくて…あたしは咄嗟に作り話を、した。






「えーと…

お手洗い行ったんだけど、すっごい混んでてね、

スタッフさんが別のトイレに案内してくれたんだ~。


そしたらさぁ、

携帯…、どっかで落としちゃった って、そこで気付いて」




「…え~!?」






「スタッフさんも一緒に探してくれて、

結局 見つかったんだけど…。


もうライブ始まっちゃってて、″どうしよう!?″って思って。


…しばらくロビーみたいな所で、スタッフさんと お話してたの 笑




でも、途中から だったけど、

ライブ、めっちゃ楽しかったぁ~♪」




「…ほんと!?


それは、良かったw」




そんなに非現実的な嘘では なかったからか、

聖良ちゃんは信じてくれた みたいで、

そう言うと、それからは嬉しそうに、ライブの話を し始めた。




聖良ちゃんの楽しそうな様子を見て あたしも嬉しかったし、

会場に居たファンの子達も みんな すごく楽しそう だったから、

来て よかった と、この時は心から思った。




でも…。


心の中の どこかで、

ずっと、景さんの事が引っ掛かって…いた。






…正直な気持ちを吐き出してしまえば、

景さんに もう1度 会いたかった。


でも……、出来なかった。




本当は

景さんに初めて会った時から、

惹かれる″何か″を、感じていたのだ けれど…、


…それを認めたく、なかった。





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