カノン
「……ねぇ、聖良ちゃん。
″運命″って……、信じる…?」
「運命…?
何 何!?
リアちゃん もしかして、
運命の相手に出会っちゃった…とかっ!?」
遊んだ帰り道、車を運転しながら
興奮気味に、聖良ちゃんが言う。
「いや、そうじゃないんだ けど…。
例えば…、
自分と似た匂いの人って、居るよね?
…初めて会っても、″この人とはウマが合うなぁ″って思うような、人」
「うん、うん」
「例えば それが、自分と同じ匂いが する上に、
好きな食べ物も、嫌いな食べ物も、癖も、考え方も、全部 同じだって分かったら…、
聖良ちゃんは その人に会った事を、″運命″って思う?
…それとも″偶然″って、思う?」
「え~、
それは絶対″運命″でしょ!」
「ぜ、絶対…?」
「うん。
ただ単に偶然が積み重なってるだけとも、勿論 思えるけど…
…あたしは運命だと思うな!!
それを全部 偶然なんて言っちゃったら、夢が ないよ~」
…聖良ちゃんの声が、どこか遠くに聴こえた。
―あたしも…、
聖良ちゃん みたいに思えれば、よかったなぁ…―
聖良ちゃん みたいに考えられたら、
あたしの″運命の人″は、間違いなく景さんだ って、堂々と言えたかも しれないのに。
でも今の あたしには、とても そんな事…思えない。
せめて景さんと普通に…
例えば同級生として出会っていたなら、まだ違うかもしれない けれど、
初めて会った時から景さんは、大人気バンドのヴォーカルで。
公表しないだけで、彼女だって当然 居ると、思う。
…どう考えても、
あたし1人が舞い上がって″景さんが運命の相手″って言う事は、
″痛い″以外の何物でもない気が、した。