カノン




「………。




もしかして…、

今日、ライブ…?」




固まり続ける あたしに痺れを切らしたのか、

咲くんが″行くの?″と言うように、小首を傾げた。






「……あ、はい!


行きます!」




慌てて そう答えると、咲くんは


「…そっか 笑


気を付けてね」


って言って、微笑った。






″行くの?″って、何のライブの事なのか…、


それに もし それが、あたしが行こう と してる対バン イベントの事だった として、

あたしが どのバンド目当てだと思ってるのか…、


″あたしの事、覚えてますか…?″って、

訊きたかった けれど…、怖くて訊けなかった。




咲くんの態度が、何となく物語ってた…から。




今あたしに話し掛けてくれたのも、

あたしが じーっと黙って見てるから、気を遣ってくれただけ…だろうし、

大きな荷物 持ってるし、フリフリ ヒラヒラした服装が″ヴィジュアル系 好きそうな人″に見えたから、

ライブの話を振ってくれただけ、なんだと思う。


″気を付けてね″って言葉だって、

風邪を引いた時の″お大事に″と同じで、

ライブに行くって聞いたから、定型文みたいな感じで出て来ただけで、

それは相手が あたし じゃなくたって、きっと言ってた。




インストで手紙 直接 渡しながら世間話とかも してるから、

もしかしたら顔には何となく見覚えが あったのかもしれない けれど…


どこで会って、どんな話を したのか…なんて事まで覚えて貰えてない

って、…ちゃんと、分かってる。




分かっていた けれど……、

そういう事を改めて考えたら…少し、悲しくなった。





< 61 / 275 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop