カノン
11
………気付いたら、
景さんのマンションに、居た。
もう怒っていないからか、サナギさんが景さんの近くに戻って来ていて、
あたしに″何 飲みますか?″と、笑顔を向けた。
それから続けて″景さんは、またコーヒーでも良いですか~?″と訊くのを見て、
そう言えば2人で話す時は、彼女は″さん付け″を していた と、その場に関係の無い事を ぼんやり と、思い出した。
なぜ あたしが景さんのマンションに来たのか…?と、言うと…
…確か、電話越しで景さんが″改めてマネージャーを紹介したいから″って言って…、
それで家までの案内を してくれたからだ…と、思う。
でも どの道を どうやって来たのか とか、肝心な事は…最早 何も覚えていない。
ただ…
景さんの お家に お邪魔して、……思ったんだ…。
景さんの態度や、サナギさんの電話での説明で、″彼女″はサナギさんでは ないのかも…という気は したけれど、
″彼女″という存在自体は居ると、思った。
その″女の勘″という名の確信の所為で、
あたしは この時の事を、何も覚えていないのかもしれない。