カノン
―…
「………リア~
さっきから、食い過ぎ!」
またチョコレートに伸びる あたしの手を見て、″親友″が言った。
…あたしの事を″リア″って呼ぶのは、
ライブで″姫″って名乗り始める前の あたしを知っている…
学生時代の同級生とかだけ。
1人、″姫″の名付け親の幼馴染だけは、今も昔も変わらず、あたしの事を″ひめこ″って呼んでるけれど…
今 周りに居る友達は、ライブに通うよう に なってから知り合った子達ばかり だから、
みんな″姫ちゃん″って、呼ぶ。
…あ、あとマナちゃんは小さい時の あたしを知ってる けれど、
大人に なって再会した時に″姫って呼ばれてる″って話を したら、それ以来 面白がって″姫ちゃん″って、呼ぶように なった。
だから、聖良ちゃんとか、昔の友達と会うと″リアちゃん″って呼ばれるけれど、
そういう昔の友達には しょっちゅう会ってる訳でも ないから、どっちか って言うと、普段は″姫ちゃん″って呼ばれる事の方が多くて…、
珍しく呼ばれた″リア″って名前に、一瞬 戸惑った。
…そう言えば、景さんもサナギさんも あたしの事を″リアちゃん″って呼ぶけれど…、
彼らに関しては別世界の人って感じがして、そんな考えにまで至らない ってのが現状。
「……何 固まってんの 笑
君は、″葉月リア″でしょーが。
…ほら、
目の前に あれば あるだけ食っちゃうんだから、
これは もう、預かっとくよ!」
戸惑って、一瞬 返事が遅れた あたしに
お母さん みたいな台詞を吐いて、親友が目の前からチョコレートを取り上げる。
「返してよぉ~」
背の高い彼女の手に あるチョコレートを一生懸命 掴もうと するけれど、当然 届かず…
親友は ぴょんぴょん する あたしを見て、可笑しそうに微笑った。