花に、嵐
「…いただきます」
小さく言ってペットボトルの蓋を開けようとしたところで

「花菜。それは冷たすぎます。体が冷えてしまう。こっちを飲みなさい」

ペットボトルは手の中から消えて、いつの間にか私の前に来た朔ちゃんに、温かい日本茶の入った湯呑みを手渡された。


「あ、ありがとう。朔ちゃん」

暖かくなったとはいえ、夜はまだまだ肌寒い春の夜。

確かによく冷えたミネラルウォーターよりはこっちのほうがありがたい。

朔ちゃんが買ってきてくれた回月堂の桜餅にも合うし。


「──それを食べたら送りますから帰りなさい」

「──」

朔ちゃんらしい黒で統一されたインテリア。
その中でも存在感を漂わせる黒の革張りのソファーに腰掛け、ウキウキしながら、桜餅に楊枝を刺しかけた手が止まる。

「今日はもう遅い。今度昼に時間を作ってあげますから、話はそのときに聞きます」

相変わらず、有無を言わせない感じで勝手に話を進める朔ちゃんに、だけど今日ばかりはそんなに悠長にはしていられない。







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